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sonihouse Owners Vol. 02
田辺玄、森ゆに|後編

sonihouseは、これまで日本各地へ、ときには海を越えてスピーカーを納品してきました。私たちの製品を選んでくださった方たちと話をしていると、深く共感することや忘れがたいお話を聞くことも少なくありません。「sonihouse Owners」では、そんな対話の一部をご紹介します。

前編に引き続き、田辺玄さん、森ゆにさんにお話を伺います。東京から山梨・甲府に移り住み、自宅兼スタジオを拠点に活動されているお二人。前編では、甲府に移り住むまでの経緯や、sonihouseのスピーカーの鳴りについて音楽家ならではの視点で語っていただきました。後編では、sonihouseとの出会いのきっかけとなった演奏会について、そしてこれからの音楽との関わり方について、お話をお聞きしました。

柔らかく、自然体になれる音響

sonihouse 鶴林万平(以下、鶴林):そもそも僕らの出会いは、2015年の夏に開催された篠山・rizmでの演奏会がきっかけでした。そのときsonihouseはどんな第一印象でしたか……?

田辺玄(以下、田辺):正直、すごく難しいなと思った記憶があります。慣れない音の広がり方をするスピーカーだし、rizmで演奏をすることもはじめて。初対面だからコミュニケーションのとり方も一からで、はじめてのことだらけだったから「これは時間がかかるな」と。たぶん結構緊張してたんじゃないかな。

鶴林:玄さん緊張してたのか(笑)。でも玄さんは演奏者でありながら音響技師として裏方の気持ちもわかるじゃないですか。僕はあのとき、すごいソフトで優しい人だなって印象があります。

森:私はいっぱいいっぱいで全然記憶がない(笑)。どちらかと言うと、翌年の同じ時期にrizmで開催された演奏会のことが印象に残ってます。その日のプログラムには私のソロもあったのですが、演奏を終えて「sonihouseは自分の肌に合ってるな」って思いましたね。というのも、私の場合モニターが間近にあると、どう聴いたらいいのかわからなくなって声を抑え過ぎてしまうんです。でもsonihouseのスピーカーだとお客さんが聴いているものと同じ音で空間を満たしてくれるから、すごく楽で心地がよかった。自分が自然体になれている感覚すらありました。

スタジオの一角には、ゆにさんが子どもの頃から弾き慣れたピアノがある。「このピアノの前で集中して制作しているわけではなく、散歩したり、ソファでリラックスしてみたり、生活を通じて制作していますね」

田辺:それは当時からよく言ってたよね。僕も落ち着いてsonihouseの音を聴けたのは、その年の演奏会がはじめて。あのときに、すごくいいなと思ったんだよね。

鶴林:ありがとうございます。どちらかと言うと、クラシック出身のアーティストから重宝されることが多いです。恐らく、そもそもPAやモニターに疑問を感じてる人たちに支持されていますね。

田辺:sonihouseのスピーカーは音をそのままを増幅してくれるからじゃないかな。ヴァイオリンやクラシック仕様の楽器は、オンマイクで録ると痛い音になっちゃうじゃない。普通のスピーカーだと、どこで弾いてても目の前で演奏しているような感じになるから僕はオペレートするときに音量やある部分のEQを削って馴染ませようとするんだけど、それでもすごく痛い音になっちゃうときがある。でもsonihouseのスピーカーはそういうのがないんだよね。柔らかいまま表現してくれる。

今年の春頃から毎朝フルートの練習をしている玄さん。「リードやマウスピースを介さずに音を奏でるフルートは、限りなくシンプルで美しい構造の管楽器なんじゃないかな」

畑を耕すような、日々の制作

鶴林:演奏会を通じてお互いの相性を感じることはよくあります。ただ、今年の音楽業界は新型コロナウイルスの影響が甚大で、お二人もそうだと思いますが、演奏の場に携わる機会がぐんと減りました。

森:私も7月に東京で自主企画のソロ演奏会を行う予定だったんですけど、会場と感染症対策の話をしていると、結局演奏じゃないところに意識が向かってしまって……結果的に見送ることになりました。

鶴林:4月に緊急事態宣言が出てから3ヶ月間、世間の状況と個人的な気持ちがコロコロ変わるので、僕は疲弊してしまった時期もありました。そういった社会や気持ちのゆらぎが、制作の妨げになったり、逆にモチベーションになったりはしないですか?

森:私たちはもともと年中演奏会を開いているタイプではなくて、制作をして、CDやレコードとしてお客さんに買ってもらって、お家で楽しんでもらう。そんな聴き方をされる音楽だと思っています。だから制作して音源をリリースするという作業に関して言うと、今後も変わらないでやるようにしたい。もちろん、世間の動きにいろいろと心は動かされるんですけど、いままでのペースを守ってやったほうが、作品のクオリティは保てるだろうなと思うんです。

鶴林:それは、甲府に移り住んで制作しているということも大きく影響していそうです。

森:そうですね。甲府に来てはじめて自主制作で作品を世に出して思ったのは、リリースしてからそれが色んな人に届いて受け止められるまでにもすごく時間が必要だということ。2015年に『祝いのうた』というアルバムをリリースして、当時セールス的にはジリジリっていう感じだったんですけど、1年後くらいに突然新しいつながりができて、そこからダダダーっと色んなところへ旅立ったんです。すると自分にとって2015年の作品がいつまでも新鮮に感じられて、それがすごく良いなって。つくったものを大事に届ける時間は必要だし、次の作品のためのものが湧いてくるにもやっぱり時間がかかります。私の音楽は、いろんな気持ちや生活の蓄積でできているから。

右上から時計回りに、森ゆに『シューベルト歌曲集』(2012)、森ゆに『祝いのうた』(2015)、田辺玄『風と音と』(2018)、森ゆに『山の朝霧』(2019)。いずれの作品も玄さんがレコーディング・エンジニアを務めた。

田辺:そもそも音楽をつくる理由、僕たちにとっての音楽は、日々畑を耕すようなことに近い。つまり、毎日ずっと同じ繰り返し作業が必要。そのことが、この非常事態のなかでより明確になってきました。とても大変なことが起きてるんだけども、同時に足元を見つめる時間がたっぷりできたおかげで、自分の活動の幹になる部分について考え直すきっかけになった。

鶴林:実際コロナで仕事が減って、不安もあるわけじゃないですか。周りにも何かしないとこのままじゃ先行きが不安、どうしようもないっていう人もいます。

田辺:そういう意味では、ものすごく恵まれたほうだと思うんだよね。僕たちも金銭的な影響は大きく受けているのだけれど、それよりも気持ちが折れるほうが正直怖い。創作さえ続けられていれば、どこかで「大丈夫」と思っている節はあるね。

森:私は音楽をつくることを絶対やめない。けれど、本当にお金がやばい!となったら音楽と関係のない仕事をするかもしれないぞ、という考えが常に頭の片隅にはありますね。

田辺:sonihouseもそうだけど、いま一緒に仕事をしてる人たちからは、ものすごくエネルギーをもらっています。たとえ今回断念したイベントやプロジェクトがあっても、後々またやる機会がある。そう思える人がほとんどだから、心配になることがあまりないです。それは今にはじまったことじゃなくて、ずっと信頼を積み重ねてきたからこそ。失くなってしまった演奏会も、もうちょっと落ち着いたら絶対にそれはまたやるだろうなって。きっと、みんなもそう思ってるんじゃないかな。その安心感がいまの僕らを支えてくれています。

前編を読む

プロフィール

田辺玄(たなべ・げん)
ギタリスト、レコーディング・エンジニア。山梨県出身。「Studio Camel House」主宰。「WATER WATER CAMEL」、森ゆに・青木隼人とのトリオ「みどり」、haruka nakamuraとのユニット「orbe」やバンド「CASA」のメンバーとして活動しつつ、映像・空間のサウンドデザインなど、音を通じて人や場と関わり制作を続けている。
studiocamelhouse.com

森ゆに(もり・ゆに)
シンガーソングライター、ピアニスト。バンド活動を経て、2009年よりソロ活動をスタート。賛美歌やクラシックをルーツに持ち、これまでに弾き語りによるオリジナルアルバムを4作品発表。最新作『山の朝霧』では、甲府の自然風景をおおらかに歌い、録音は”scenery”を使って行われた。
moriyuni.net

取材・文 浅見旬
写真 sonihouse

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