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sonihouse Owners Vol. 02
田辺玄、森ゆに|前編

sonihouseは、これまで日本各地へ、ときには海を越えてスピーカーを納品してきました。私たちの製品を選んでくださった方たちと話をしていると、深く共感することや忘れがたいお話を聞くことも少なくありません。「sonihouse Owners」では、そんな対話の一部をご紹介します。

演奏家、レコーディング・エンジニアとしてさまざまな楽曲制作に携わり、実力派ミュージシャンたちから厚い信頼を得る田辺玄さん。クラシック、賛美歌をルーツに持ち優雅かつ柔和な世界観を歌い上げる、シンガーソングライターの森ゆにさん。都心から離れ、山梨・甲府で制作を続けているお二人のご自宅には、”sight”を導入していただいています。未曾有の2020年、初夏。かねてから音楽を生業にしておられる玄さん、ゆにさんに、改めてじっくりお話をお伺いしました。

生活するように音楽をつくる場所

sonihouse 鶴林万平(以下、鶴林):甲府に移り住んで、どのくらいですか?

田辺玄(以下、田辺):そもそも僕は甲府が地元なんだけれど、大学入学で上京してしばらくは東京で音楽活動していました。けれど、当時のバンドメンバーが突然「地元で喫茶店をやりたい」って言いはじめたのがきっかけで、それから甲府に戻ることになった。それが2008年頃かな。

鶴林:バンドというのは、「WATER WATER CAMEL」。

田辺:そう。中学生の頃に友人たちと3人でバンドを組んで、それからずっと一緒に活動して、大学卒業してからは都内の一軒家で共同生活していました。22歳から28歳くらいまで。その頃は、家で練習して録音して、ライブハウスで演奏して、バイトしてっていう音楽漬けの日々。けれど、家の更新や色んなタイミングが重なって、それからは拠点がバラバラになっちゃった。

鶴林:そのとき、玄さんは反対しなかった?

田辺:どちらかと言うと、僕もその頃くらいから「べつに東京じゃなくてもいいかも」と思いはじめてたのね。活動の初期段階から自然とインディペンデントな方法を選んでいたら、いつの間にか自分たちだけですべてまわせるようになって、東京という場所にあんまり依拠しなくなった。そしたら、2005年くらいから地方の小さなカフェやギャラリーで演奏する機会が増えて、東京以外にも、もちろん山梨にも「こんなおもしろい場所があるんだ!」って感じることが多くなったんだよね。ひょっとしたら東京に住んでなくても、音楽を続ける方法はいくつもあるのかもって。

鶴林:なるほど。その時期、ゆにさんは別で活動していた?

森ゆに(以下、森):その頃は大学の先輩たちが組んでたバンドのサポートキーボーディストをしていましたね。

鶴林:バンド活動に入る前、元々はピアノと声楽を習われていたんでしたっけ?

森:そうです。5歳の頃からピアノを習っていて、そのときの先生の方針でピアノのレッスンと並行して声楽も教わっていました。その後、中学校では聖歌隊に所属して、高校卒業するまでずーっとピアノと声楽を習っていました。けれど、高校生くらいからラジオを聴いたり「ROCKIN’ON JAPAN」を読んだりして、バンドをやりたい!と思いはじめたんです。だから、音大に入るのはよして、一般大に入ってサークルでバンドをやろう! と思って。

鶴林:音大に入ると、クラシック一辺倒になってしまうと。

森:そう。なので大学に入ってサークルでバンド三昧。そのなかで先輩のバンドでキーボーディストが必要というので手伝っていたら、そのままそのバンドがメジャーデビューしちゃって。私はそのとき就職していたんですけど、サポートに専念するために会社を辞めたんですよね。その後、2008年頃にバンドの体制が変わったタイミングでサポートを抜けることになり、その頃から自分もなにか音楽をやりたいなと。バイトしながら曲を書いて、ライブハウスで演奏して、音源を「My Space」にアップしていました。そしたら、たまたま音源を聞いてくれたレーベルの人が声をかけてくれたんです。玄さんとは、そのはじめてのアルバムのレコーディングの際に、スタジオで挨拶したのが最初ですね。

居間の大きな窓からは、甲府の町並みが一望できる。取材に訪れた日は雲の動きが早く、刻々と表情を変える美しい眺望は、いつまでも眺めていられるほど。

田辺:ちょうど、僕がバンドメンバーとの共同生活を解消して山梨と東京を車で行き来して生活していた頃だね。その後間もなく、彼女と山梨に移り住んで、この家には2016年から住んでます。こっちに戻ってくるようになってから録音の仕事も増えてきたので、下のフロアは「Studio Camel House」という屋号のスタジオにしました。それまでは自分のスタジオを持っていないから、演奏者が録りたい場所に機材を持ち込んで録るスタイルだったんです。スタジオよりもリビングのほうがリラックスして録れるし、そういうところに面白さを感じてたから。

鶴林:生活の空間で録るとスタジオに比べたら良くも悪くも雑味が入ってっきますよね。どちらの方向性で進むのかは、悩みませんでしたか?

田辺:僕はキャリアの前半は宅録ばかりしていたから、スタジオで録ることへのコンプレックスみたいなものがあった。スタジオならもっと良い音で録れるはずなのにという葛藤と、慣れない緊張感のある場所で演奏することの難しさの両方を感じてました。逆に言えば、スタジオのハイクオリティな良さと、家で録るリラックスした感じ。その2つを両立できたらいいなと思って。

鶴林:そのある種の矛盾に対しての答えが、「Studio Camel House」なんですね。

田辺:そう。そもそもエンジニアになりたいわけじゃなく、自分がつくりたいものをつくるために作曲やアレンジの延長線上で録音をはじめたからね。それに、かつてバンドメンバーと共同生活していた東京の一軒家みたいな自由に使える場所がとにかくほしいってずーっと思ってた。生活するように音楽をつくる場所がほしいなって。

2017年に自宅に導入してくださった“sight”。導入前のレンタル貸出中にはスタジオのモニタースピーカーとしても使用してくださり、“sight”でミックス・マスタリングを仕上げた作品もあるそう。

偏りない音質で、空間をひとつにまとめる

鶴林:いま、このリビングでは“sight”を使っていただいていますが、聴き心地はどうですか?

田辺:とにかく気持ちよく聴けるスピーカーだよね。僕はエンジニアとしてのルーティンのなかに、自分が手掛けた音源をこのリビングで流すという作業工程があるんだけど、“sight”はその工程でものすごく大きな役割を果たしているね。

鶴林:それは詳しく聞きたいですね。

田辺:スタジオで作業しているときは、スピーカーの目の前に座って、すべての音を漏れなく聴きながらコントロールしている。けれど、仕上げていく過程のどこかで必ず「聴こうとしないで聴く」行為を入れないといけない。そうしないと、集中して聴いているつもりでも、少し時間を空けて聴き直すと「どうしてここに気付かなかったんだ!」って部分が出てきたりする。結局は、俯瞰できていなかったってことなんだよね。聴こうとし過ぎると意外とバランスが悪くなって、細かいところを気にしすぎるとそこにばかり囚われちゃう。特に演奏から録音、ミックス、マスタリングまですべて自分でやる場合には、なおさらその過程が必要になってくる。

鶴林:思い込みがリスニングの邪魔をしちゃう?

田辺:そう。だいたい人間の耳って都合のいいように聴いちゃうじゃない。だからフラットに聴く時間は絶対必要。それもスタジオじゃなくリビングで聴くというのも大事かな。ご飯を食べながら、掃除をしながら、スタジオで聴くときとは違う意識で聴ける。それによって「よし!」とか「もっかいやろう」っていう判断をしてる。いまの自分はsonihouseのスピーカーをとても重宝してるね。

居間の下階には、玄さんの仕事場でもある「Studio Camel House」がある。作業を行うのは主に午前中。窓の外から入ってくる陽光や風景を感じながら、ひたすらに音に集中する。

鶴林:そう言ってもらえると嬉しいです。最近、うちの製品と他社の製品を聴き比べする機会があって、改めて他社のスピーカーは没入感がすごい。臨場感もあって、演奏者の体温まで感じ取れるほど。一方でsonihouseのスピーカーは、細かい音も確かに聞こえるけれど、意識は少し離れたところにあって、演奏を眺めているような感覚です。それぞれの音の重なりが模様のように見える、そんな個性をもったスピーカーなんです。

森:本当にちょうどいいスピーカーですよね。この家には、例えばいまは外からセミの鳴き声が聞こえてきますけど、普段からいろんな音に溢れているんです。“sight”は、外からの音や会話の隙間に対して、無理なく音楽が入っている感じがすごくいい。会話も邪魔しないし、来訪した人はどこから音が出てるかわからなくて「これはどこから? あ、これ?」みたいになるんです(笑)。音の出どころが絶妙でストレスがない。ここは眺望もいいので、この景色や雰囲気、外から聴こえてくる音も含めて音で全部ひとつにしてくれる、そんな印象ですね。

後編に続く

プロフィール

田辺玄(たなべ・げん)
ギタリスト、レコーディング・エンジニア。山梨県出身。「Studio Camel House」主宰。「WATER WATER CAMEL」、森ゆに・青木隼人とのトリオ「みどり」、haruka nakamuraとのユニット「orbe」やバンド「CASA」のメンバーとして活動しつつ、映像・空間のサウンドデザインなど、音を通じて人や場と関わり制作を続けている。
studiocamelhouse.com

森ゆに(もり・ゆに)
シンガーソングライター、ピアニスト。バンド活動を経て、2009年よりソロ活動をスタート。賛美歌やクラシックをルーツに持ち、これまでに弾き語りによるオリジナルアルバムを4作品発表。最新作『山の朝霧』では、甲府の自然風景をおおらかに歌い、録音は”scenery”を使って行われた。
moriyuni.net

取材・文 浅見旬
写真 sonihouse

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